[書評]こんなに使える経済学 肥満から出世まで

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大学で経済学を専攻したしたものの端くれとして、経済学・経営学関連の書籍を読むのは実益半分、趣味半分のところがあります。

また、大学で教科書として使われていた本も、改めて社会人になってから読みかえしてみると、違った視点での感想が得られて知的刺激が得られて楽しいものです。

ただ、最近は忙しさにかまけて読書量が減っていました。そこで、日経ビジネスの連載「経済学っぽく行こう!経済学っぽく社会を考える、勉強本リストはこれだ!」(閲覧には日経ビジネスオンラインへの会員登録が必要です)で駒沢大学准教授の飯田泰之先生が取り上げられていた本を図書館からまとめて借りてきました。

その中の一冊がこの「こんなに使える経済学 肥満から出世まで」。

こちらは、2006年9月26日号から04年4月10日号までの「週刊エコノミスト」に大阪大学 社会経済研究所のメンバーを中心にして連載していた「よく効く経済学」を加筆修正の上一冊の本にまとめたもの、とのことですが、「経済学的な考えはこういうものだ」という、極めてミクロなテーマが取り上げられていることもあり、経済学の初学者でも非常に読み易い、改めて「経済学」を学ぶ意欲を掻き立てる良書となっていました。

序章にあるように、本書は

現実のさまざまな社会経済問題を経済学の視点で一般の人にもわかるような記述方法で、紹介したもの

であり、

人々のインセンティブを考えてみて、社会で発生している問題をとらえ直し、その処方箋を考えるというスタイル

で一貫しています。このスタイルを取ることにより

インセンティブをうまく設計して、社会全体が豊かになるような仕組みを考える学問が経済学である。

ということを 

経済学に対する普通の人のイメージは、お金の儲け方を研究している学問だとか、株価や景気の将来予測をしている学問

だと考える人や

入門レベルの経済学の教育の仕方が悪かった

ことで

経済学が役に立たないと思ったり、嫌いになった

人たちにも解りやすく理解させてくれます。

つまり、「経済学」とは

人事制度の設計にしても、教育制度にしても、税制の設計にしても、都市の設計にしてもそのような人々のインセンティブを無視して設計しては、うまく機能しない。そのような仕組みを考える上で一番有効な方法が、経済学的な思考方法でなのである。

という「思考方法」であることがよくわかるようになっているのです。

世間では「差別」や「格差」「景気刺激」等の問題について討議され、それに対する解決策が提示されていますが、これらに対して「経済学」で考えた場合はどうなるのか、という点で私自身が面白かったのが以下のテーマです。

「美男美女への賃金優遇は不合理か – 安井健悟」「出世を決めるのは能力か学歴か – 川口大司」「教師の質はなぜ低下したのか – 大竹文雄/佐野晋平」 「不況時に公共事業を増やすべきか – 小野善康」「お金の節約が効率を悪化させる – 小野善康」「解雇規制は労働者を守ったのか – 大竹文雄/奥平寛子」

これらの問題に対して新聞や左派の政策では「ロジカル・シンキング」ではなく、日経ビジネスの連載「経済学っぽく行こう!01 みなさん、「勉強」してみませんか?」でSYNODOS代表の芹沢一也氏が述べているように、

日本が高度成長以来つくってきた社会システムが壊れつつある、そうした中で若者を中心に貧困が広まっている、という話になる。 

 では、いったい何がいけなかったんだ? と議論すると、要するに新自由主義経済だ、市場原理主義だ、あるいは小泉構造改革だという話に……

なって

世界的に戦後、ケインズ主義的な発想に基づいてつくられた福祉国家が、オイルショック以降行き詰まるなか、ハイエクの思想を背景にしたサッチャー、あるいはレーガンの新自由主義改革によって壊されていった。それが日本の場合、20年ほど遅れて起こっている。そして、日本でも、小泉構造改革によって、イギリスやアメリカと同じように、格差と貧困が広がっていると。

いう話になりがちであり、それに対する解決策としては

「非正規雇用の人たちも大変だ、だけど正社員も大変だ。お互いに手をつなげば世の中を変えていけるんじゃないか」。そういう人間の善性というか、よき心に訴えかけて、社会を仲良く変えていきましょうみたいな発想。コミューン的な思考を持ち上げてみたり。

というように「それって解決策になっていない」ということが多いのですが、それに対して明確な回答を出しているからです。

もちろん、再度序章から引用すると

情報が不完全である以上、効率性と平等はどこかでバランスさせるしかなく、すべて全員が満足できるような社会というのはもともと作れない。

のであり

当事者の利害関係で判断した場合と、社会全体の便益で判断した場合では、全く逆になるというケース

もあるが

世論が期待するとおりの政策をとると、逆に不幸な社会になってしまうということもある。そのような制度設計の問題点を明らかにしていくことも、経済学の一つの役割だと考えられる。

という点からも「経済学」という「思考方法」を学ぶのに最適な書籍だと思います。

目次
序「経済学は役立たず」は本当か
第一章 なぜあなたは太り、あの人はやせるのか
なぜあなたは太り、あの人はやせるのか – 池田新介
たばこ中毒のメカニズムを解く – 池田新介
臓器売買なしに移植を増やす方法 – 高宮浩司
美男美女への賃金優遇は不合理か – 安井健悟
第二章 教師の質はなぜ低下したのか
学年ごとの競争は公平か – 川口大司
文系の大学院志願者が一時増えた理由 – 小川一夫
出世を決めるのは能力か学歴か – 川口大司
教師の質はなぜ低下したのか – 大竹文雄/佐野晋平
第三章 セット販売商品はお買い得か
セット販売商品はお買い得か – 鈴木彩子
犯罪が地域全体に与える影響とは – 沓澤隆司
理論を逸脱する日本人の行動 – 西條辰義
人の生まれ月を決めるのもの – 暮石渉/若林緑
少子化の歴史的背景とは – 杉本佳亮/中川雅央
第四章 銀行はなぜ担保を取るのか
日本人が貯蓄しなくなったワケ – チャールズ・ユウジ・ホリオカ
株で儲かる「裁定機会」はあるか – 筒井義郎
ぜいたくが解く株価のなぞ – 池田新介
銀行はなぜ担保を取るのか – 小川一夫
銀行の貸し渋りはあったのか – 筒井義郎
第五章 お金の節約が効率を悪化させる
談合と大相撲の共通点とは – 青柳真樹/石井利江子
周波数割当にオークションは馴染むか – 齋藤弘樹/芹澤成弘
不況時に公共事業を増やすべきか – 小野善康
お金の節約が効率を悪化させる – 小野善康
サザエさんの本当の歳を知るには – 鈴木彩子
第六章 解雇規制は労働者を守ったのか
「騒音おばさん」を止めるには – 大竹文雄
耐震データ偽造を再発させない方法 – 常木淳
解雇規制は労働者を守ったのか – 大竹文雄/奥平寛子
相続争いはなぜ起こる – チャールズ・ユウジ・ホリオカ
あとがき
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