[書評]ダメな議論―論理思考で見抜く

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先日、図書館で経済学者 飯田泰之先生の本をいくつか借りてきました。こちらはその中の1冊で、専門の経済学の本ではなく論理思考法について書かれた本です。

刊行は2006年11月となっていますので、ちょっと前の本になりますが、飯田先生の思考法が見えて非常に面白くかつ参考になりました。

本書の中では論理的思考法だけでなく、コールドリーディングという説得術についても触れており、議論の中でコールドリーディングの手法がどのように使われるかも述べられています。

コールドリーディングを紹介した書籍の中で石井裕之氏は、その基本ステップを以下の5つに整理しています。
  ステップ1:  ラポール(心のつながり)を築く
  ステップ2:  ストックスピール(誰でもYESの問いかけの連続)で信頼を深める
  ステップ3:  悩みのカテゴリーを探る
  ステップ4:  悩みの核心に迫る
  ステップ5:  未来の出来事を予言する
  (26-27頁)

コールドリードとは、本来、宗教家や占い師が何の準備もなしに初対面の人の性格や悩みを言い当て、過去から現在、そして未来を読むことを指します。(26頁)

つまり、コミュニケーションによってどっちとも取れるあいまいな答えと質問により相手を信頼させる手法ですが、本書の議論の中にも頻繁にこの手法をつかったものが出てきます。

これらが使われる「ダメな議論」を見抜くためのチェックポイントとして次の5つが本書ではあげられています。

  1. 定義の誤解・失敗はないか
  2. 無内容または反証不可能な言説
  3. 難解な理論の不安定な結論
  4. 単純なデータで否定されないか
  5. 比喩とたとえ話に支えられた主張

このチェックポイントを使って「常識」とは何か、ダメな議論とは何か、予想される反論にどう答えるのかについて解説し、「ニート・フリーター問題」等の具体的な問題や、本書を執筆する理由となったという「平成大停滞」論争に対して、切り込んでいきます。

人にどのように影響を与えれば人が動くか、については「影響力の武器」という本が非常に面白くためになったのですが、この本は議論を行う上でそれら間違った論点や間違った前提等から、「ダメな議論」へと導かれることに対する「対抗策」を述べています。

一般社会においては「ダメな議論」というのはかなり数多く存在します。ただし、それを明確に指摘することは「いい大人」としてはふさわしくない、という場合も多々あり、常にこのチェックポイントを意識して生活することは厳しいものがあります。

日本人はディベートを得意としない、というのはこのあたりの思考訓練をせず、社会でも求められないという点にも理由がありそうです。

しかし、有用な政策を検証するという政治の世界においては「ダメな論争」が行われることは望ましくなく、どこに有効票を投ずべきかと考える場合にはこのチェックポイントは非常に役に立つでしょう。

日常生活で明確に指摘をすべきでないシチュエーションにおいては、わざとダメな論争に持ち込んで問題をはぐらかしてしまう、というちょっとイレギュラーな使い方もありかな。

目次
はじめに
第1章 常識は何となく」作られる
第2章 ダメな議論に「気づく」ために
第3章 予想される「反論」に答える
第4章 現代日本のダメな議論
第5章 怪しい「大停滞」論争
おわりに